ブルターニュ料理食事会 (4)

 8/25、大崎の『La Fee Claire(ラフェクレール)』へ伺った時の話の続き。


 肉料理が来る前に、ソムリエ福永さんは隣のテーブルで赤ワイン(Château Potensac 1996 - Cru Bourgeois, Médoc rouge, vin de Bordeaux)をゆっくりとデカンティングしていました。可愛らしいニワトリ型のデカンタ写真)にです。思わず、近寄って見に行ってしまいました。既にかなり重めのお料理、そして白(Taburnum)を頂いた後の、赤ですから予想通りしっかりとした、それでいて華やかな香りがするボルドーワインでした。


 そしてテーブルに、仔羊背肉のロティ、アサリのだしと仔羊のジュのソース、バターソテーしたほうれん草添え(写真)がやってきました。アサリの女中を従え、恥じらうようなコーラルピンクに色付いた仔羊の美しい姫です。小川シェフの説明によると、この仔羊は、限りなく乳飲み仔に近い仔羊の、一番良い部分だけを使って作ったとの事。我々10人の料理を用意するのには1.5頭分が使われたそうです。

 1週間前、メインは仔羊料理だと伝えると、「これまで羊を美味しく食べた事がないのでちょっと不安。でも、美味しく食べられるかも知れないから、楽しみにする」と言っていたIさんのでしたが、私が1/3を食べ終わるかどうかの所で隣を見ると、今、最後の一口を口に入れようとしている時でした。「早っ!」、私がそう言うと、「美味しかったの! ビックリよ。全然嫌な臭みが感じられなくて、むしろ上品。黙々と食べちゃった」と細い目を本当に丸くしてIさんが答えました。それを見て、ゆうさんがふんわりと微笑みながら「良かったねぇ。これからは、羊が美味しく食べられるよ、きっと」と言いました。

 本当に美味しく、この上なくセクシーな料理だったのですが(付け合わせのほうれん草も、かなり力と自己主張のある素材で美味しかったです)、私の胃袋はもうMAXに近づいていました。私は所謂別腹のない人で(突然眠ってしまう:ナルコレプシー気味でもあるので)、明らかに脳からのオレキシンの分泌が悪いようなんです。これまでに何度も、友達と食事に出かけて、最後のメインとデザートを食べ損なって来たのです。これを全部食べたら、絶対にデセールが入らない……、そう思って仔羊を1/3残し、渋々カトラリーを置くと、めしあさんが「えっ! 残すの? 食べて良い?」と言って食べてくれました。良かった。残して下げられるのは、心苦しかったのです。


 アヴァン・デセールはカルヴァドス(フランスのCalvados地方で作られている、2年以内の若く香りが強いシードルから作る蒸留酒)のグラニテ(写真)。器に鼻を近づけると、ゆったりと甘いカルヴァドスの香りがしました。口に入れると、しっかりとお酒の味。食後酒を同時に頂いているみたい。

 グラニテを頂いてすぐ、白の上にフクシア・レッドのソースが乗ったものが出てきました。「こちらは、ヨーグルトとフランボワーズのソースが入っています。次に出てくるクレープの上に、お好みでかけて召し上がって下さい」と言われました。程なく、ブルターニュ発祥の有名なお菓子、クレープが出てきました。フランボワーズ・スフレを包んだクレープ(写真)です。

 カリッとした縁取りのあるクレープは、生地にも有塩バター(レスキュール)が使われていて、仕上げに表面にも塗ってある為、お菓子でありながら料理の様な顔もしていました。親しみのあるクレープが、スフレというレストラン菓子と合わさる事によって、よそ行き仕様になっている感じでした。そのままでも、素敵でした。せっかくソースがあるので、掛けても食べてみました。甲乙付けがたかったです。「これ、普段の時にも予約して食べたいねぇ!」と、ほぼ全員が言ったデセールでした。食べながら、朱雀さんが瞳を潤ませ、もの凄い台詞を言い、ゆうさんが暖かい言葉で返しました。私もぐっと来て泣いてしまいそうになりました。

 パティシエの山形さんが出ていらして、次のガレット・ブルトンヌ(写真)の説明をしました。バターがたっぷり入っているので、成型の為にセルクルに入れて焼いているそうです。もっと大きいのが伝統的な大きさのようですが、今回は小さくされたとの事。囓ってもボロボロになる事はなく、断面にはお行儀の良い層が見えていました。油分は多くても軽やかな味でした。


 13時に始まった食事会でしたが、料理を食べ終えた時点で、ほぼ2時間が経過していました。そして今回も、食いしん坊たちは食べ物の話をしながら、その後約1時間もラフェクレールで食休みをさせてもらいました(佐藤和佳子さんは中座されましたが)。それから、「雨が降っているので、滑りますから注意して下さい」と言われつつ、前回と同じく中庭を通り、大崎の駅へ向かいました。

 帰り道、「『好きになった人』は、頭から離れた?」と訊くと、Iさんは満面の笑みで「駄目」と言って前奏を歌い出しました。Iさんは、「めしあさん夫妻って本当に素敵だね! 雰囲気も良いし、2人とも本当に美味しそうに食べてた」と言うので、強く同意し、「Iさんも、凄く美味しそうに食べてたよ」と言うと、「だって、本当に美味しかったよ。今日、来て良かった。明日からも頑張ろう!って気持ちになったよ」と満足そうに言っていました。

 私は帰ってきて、その日の日記にこう書きました。『以前スージーさんが、「小川シェフは料理の中の“男らしさ”と“女らしさ”のバランスがいい」という話をされていたけど、それが如実に現れていたような気がする。前回は、男5:女5と言うような雰囲気だったけど、今回は、男8:女2って感じ。そして、ビシッと小川シェフの主張が通ってるの。凄く駆け引き上手のテクニシャンだ』と。今回も、本当に楽しく楽しく美味しい食事会でした。