ブルターニュ料理食事会 (3)

 8/25、大崎の『La Fee Claire(ラフェクレール)』へ伺った時の話の続き。


 この濃厚な白ワインについて熱く語られている間に、ソムリエ福永さんから手の平程のライ麦パンが配られました(写真は撮りましたけど、アップしてません)。「このパンは次の料理と一緒に召し上がって下さい」そう、ちょっと慌てた様に言うと、めしあさんが笑いながら、「そうそう。先に言っておかないと、我々はみんな食いしん坊だから、料理が来た時には無いなんてあり得ますからね。聞いておいて良かったです」と言いました。

 程なくして、次の皿、茨城産岩牡蠣 林檎とヨーグルトのソースとシードルのジュレ写真)がテーブルに並びました。ほんのりと黄みがかったヨーグルトの中に、琥珀色に輝くシードルのジュレに覆われたふっくらと大きな岩牡蠣。写真では岩牡蠣の大きさが伝わらないと思いますが、12〜3cmもありました。何よりも、シードルと牡蠣がこんなに合うなんて! 決して面白いだけの組み合わせではありませんでした。“出会うべくして出会った”雰囲気でした。そしてまたこれが、あの白ワインによく合っているのです。美味しすぎて、皿の縁に流れ星を描く様に添えられたジンジャー・パウダーの存在を忘れてしまう所でした。

 小川シェフから、「本当はこの料理、生牡蠣で作るんですよ。でも、時期的に手に入らないので、岩牡蠣で代用してみました。こういったヨーグルトソースと牡蠣の組み合わせには、必ずライ麦のパンが添えられて居るんです。それがブルターニュ流です。ただ、シードルのジュレを合わせたのは、ぼくの発想なんですが」と話があると、出席者全員から賛美の声が上がりました。本当に見た目も味も美しくて……。冬になったら、生牡蠣で食べてみたいです。


 これがまだ2皿目だなんて信じられない。いつでも全体の流れを考えて出されているというコースです。否が応でも次の皿への期待が高まります。次は、帆立貝のポワレ、ポワロ葱とムール貝のクリームソース(写真)です。岩牡蠣の興奮が冷めやらないうちに次の皿がやってきたので、信じられないくらい寄った写真しか撮っていませんでした(苦笑)。帆立の奥に隠れているムール貝に穴が空いてしまいそうです。

 貝のバター焼きって、大好きなのです。それが、もう絶妙の火加減で仕上がった料理で出てきているのですから、つべこべ言う必要はないのです。写真で、上になった部分に焦げ目が付いていますが、下側には、焦げ目は付いていませんでした。見た目的には、色が付いていた方が綺麗ですけど、両面同じように焼くと強すぎるって事なんですね。クリームソースは、ふんわりとカレー(ガラムマサラ?)の香りがしましたし、ポワロ葱の中には貝紐が隠されていたりして、味に立体感を作っていました。美味しくて楽しい、これはそんな皿でした。


 テーブルに、レモンの切り身が浮かんだ銀色の手を濯ぐボウルが配られ、我々はいよいよオマール海老の登場を待つ段階になりました。オマール海老とリ・ド・ヴォー(写真)です(今気付いたのですが、今回、ディジタル画像を小さくする時に書き出しをしなかったので、カメラの名前や撮影データがFotolifeに出てるんですね。でも、感覚から言って、1/4secでは無いと思うんですが……。えー。遅くとも1/10secだと思う。でも、そうだって書いてあるんですものね。そうなのか……)。

 「あぁっ! 今だ嘗て、こんなに素晴らしい食材と共演する事になったコーンが存在しただろうか!」、朱雀さんはそう言って椅子から身を浮かし、白い皿に手を翳していました。今にも、お祈りが始まりそうでした。私は朱雀さんの隣に座っていましたし、声が一番大きかったので、凄く印象に残っているのですが、出席者の皆さんも口々にこの美しく艶やかに光るオマールを賛美していました。

 私はと言えば、オマール海老が……、このブルターニュ産の青いオマールが、どんなに高級な食材であるか全く解っておらず、ざわつくテーブルを楽しく眺めながら、コーンの上に振りかけられた、半分に割られたコリアンダーを見、香取さんの仰っていた事を思い出していました。立ち上る湯気の中に薫る、スパイスとワインヴィネガーの香り、マッシュルームとリ・ド・ヴォーの甘い脂の香り、そして、オマールのふんわりと優しい潮の香りを楽しんでいました。フォークをオマールに刺すともの凄い弾力感。ふと、昔、叔父が庭を走り回らせて飼っていた鶏を食べさせて貰った時の事を思い出しました。

 私はリ・ド・ヴォー(仔牛の胸腺肉)をいう部所を初めて食べました。リ・ド・ヴォーとは、朱雀さんによると、「仔牛が仔牛時代にだけ備える、乳を消化する酵素を出す器官で、さまざまな内臓肉(フォワグラ、トリップ、砂肝、牛舌、腎臓、腸など)のなかでも、特にマニアックな、美食家好みの食材」だそう。仔牛だなんて可愛らしい名前で呼ぶのが相応しくないような艶めかしい歯触りで、豊満な脂は、上品なオマールを優しく包んでいました。庶民派代表のコーンでさえ、丸まるとして足の長い美人。食べていて、本当にゴージャスな気分になりました。

 小川シェフが、「どうですか? お腹いっぱいになってしまいましたか? 今回のコースは、前回(8/4)のヴェジタリアン・フルコースに比べたら、かなりカロリーが高いですからね。10倍くらいになってしまってるかもしれません」と言うと、Kさんが笑いながらも困った顔で「止めて下さい、そんな事言うのは」と言いました。「否、つまり前回のコースが、本当に低カロリーだった、って言う意味ですよ」と言われましたが、確かにあり得る話ですね。前回は、徹底的に制限が多かったですし。面白いなぁと思いました。そして確かに、お腹が膨れてきました。


 つづく。