ブルターニュ料理食事会 (2)

 8/25、大崎の『La Fee Claire(ラフェクレール)』へ伺った時の話の続き。


 ブルターニュ。その名前くらいは聞いた事がありますけど、一体どんな所なんでしょう? 予め朱雀さんから「ドーヴァーを挟んで英国の海向こう、もともとブルターニュ王国として独立していた国。しかも東インド会社の中継地だった関係もあってスパイスが豊富」、そう聞いていた物の「寒そう」と想像するのが精一杯。こってりとしたフレンチと聞いて、小さく怯えては居たのですが、前回の食事会が素晴らしかったし、その前までのお話も噂に聞いていましたので、私はだただた期待して待つ事にしました。


 ソムリエの福永さんがやってきて、アルコールを飲める人は誰かを確認する前に、最初の飲み物を注ぎ始めました。私が、「あの、Iさんはアルコールを飲めないんですが……」と言うと、福永さんがニッコリと笑い、「これは、シードルです。ブルターニュは林檎が名産なので、こちらを選んでみました」とボトルのラベルを見せてくれました。エンジ色の無花果の絵が書かれていました。そして、全員にシードルが注ぎ終わるやいなや、朱雀さんが、「さ、乾杯しましょう! 今日の佳き日に!」と言い、みんなで賑やかにグラスを重ねました。

 このシードル(Sydre Doux / Eric Bordelet)は、蜂蜜の様な濃厚な金色で、その味も蜜のたっぷり入った完熟の林檎そのものの味と言った雰囲気でした。アミューズの説明にやってきた小川シェフがシードルについて説明をしてくれました。「シードルって、こんなフルートグラスで飲むんじゃなくて、本当は専用の陶器のボウルで飲むんですよ」と言って、胸の前で水をすくう様なジェスチャーで小さな丸みを作って見せてくれました。こんなに綺麗な泡が立っているのに、陶器の器で飲むなんて勿体ない。フルートグラスで良かった、と思いました。


 アミューズ、甘エビ包んだフォワグラのテリーヌとアーティーチョークの温製マリネ(写真)を見て、私はちょっとドキッとしました。これまで、フォアグラは量を食べられなくて、出てきても大抵残していたからです。しかし、一口食べて、そんな心配も吹き飛んでしまいました。甘エビの爽やかな甘さと、フォアグラの妖艶な甘さ、そして、独特の香りのあるアーティチョークという野菜の甘さ。私はこの皿の中から円舞曲を感じていました。くるくると夢の様に回りながら、「この曲がなるべく長く続きますように」そう祈りながら、一口を更に半分に切って、時間を引き延ばしていました。それにしても、最初に心配していたあの気持ちは何処へ行ってしまったんでしょう。我ながら笑えます。


 我々の食事の進み具合を見ながらソムリエ福永さんは、隣委のテーブルで白ワイン(Taburnum / Le Vins De Vienne)の準備をしていました。ボトルから白ワインにしては大きめのグラスに注ぎ、グラスを回し、香りを嗅いでは、またグラスを回していました。そうして、目の前にやってきて置かれたグラスを見ると、ワインの涙がゆっくりゆっくりとグラスの内側を辿っている。どんなワインなんだろう! 私は、緑がかったレモングラス・ティの様な白ワインを前に、ドキドキしながら福永さんの説明を待ちました。

 「ちょっとあまり嗅いだ事のない独特な香りだと思います。ビヨニエという品種で、個人の畑で作ってるものです。おなじくビヨニエを使ったワインにシャトー・グリエというワインがあるんですが、これはその反対の地域で作ったものです」。飲んでみる前に、ゆっくりと香りを嗅いでみました。苦みのあって青い草の様な……、私は深蒸緑茶のような香りを感じていました。味は香り以上に複雑で、ボキャブラリーが少ないので、本当に何と言って良いか分かりません。堅さと濃厚さは感じますけど、甘いのか辛いのか……。このワインが選ばれる次の料理に更に期待が膨らみました。

 めしあさんがちょっと難しい顔をして、「白ワインってとかく情報量が少ないけれど、このくらいのクラスになると力があるからいいですね。これなら肉料理に合わせても行けそう。僕はもう、高級なワインとか癖のある様なワインは、自分で買っちゃいけないと思ってるんですよ。信用の置ける良心的な店で、グラスで頼んで飲むのが理想ですよ」と言っていました。格好いい……。


 つづく。