「顔に薔薇が咲いている」

 温かくなり、オフィスでは髪を上げる人が増えて来た。色とりどりのバレッタをチェックしあう人達を見て、私はつい「前髪を留め上げられていいな。私は、顔に生れつきのアザがあるから、気になって上げられないよ」と愚痴を言ってしまった。すると、2週間前に娘さんとイタリア旅行に出掛けたYさんがこんな言葉をくれた。

「あら、でも私はやすのさんのアザって、ヴェニスのカルナヴァルに使われてる仮面に描かれてる、薔薇のような華やかさみたいなものがあって、いい印象を感じるけど」

 なんてイイ台詞! 本気で嬉しくなってしまった。物心ついてからずっと、私は自分がユニークフェイスである事に、物凄いコンプレックスを持っていたが、それが吹き飛んでしまうくらいの言葉だった。なんかちょっと村上春樹っぽい感じだけど、年をとって自分に対する要求度が下がったって所もあって、素直に喜んでしまった。