菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール「歌舞伎町クラブハイツ」公演

 そんなこんなで準備をしていると、松村君から、電話、メール、そして電話が。「昨日、『やっぱり他の人を当たる事にするから』と言ったけど、誰もつかまらなかったので、まだ予定が空いていたら、今日の菊地成孔とペペ・トルメント・アスカラール行かない? 17時開演の」と。時計を見ると15時。すっぴんですけど! 女の化粧時間を何分だと思っているのだ。喜ばせておいて落とし、また喜ばせては落とす。そして、また誘う。これを48時間の間にやるなんて、本当に酷い人だね、松村君は。何と言うか……、私があんなに怒ったと言うポーズを見せても、私は断らないと言う、この絶対的な自信は何処から来るのか。やっぱこれが7年の歴史と言うものなんだろうか。掴まれているのだろうか。

 大急ぎでポイントメイクをし、昨日ステージで着た黒いドレスを着て、走って走って歌舞伎町クラブハイツに着いたのは、開演5分後。マチネソワレあるので、勿論演奏は始まっていた。会場のギャルソン(?)は慣れていない人ばかりで、何故かこの時間になってもバタついていた。

 演奏はどの曲もうっとりするほど美しく、ギラギラとスリリングで、艶やかでセクシーだった。大義見さんがいたからか、野音で聴いた音と全然違う色合いだった。何曲目か忘れたけど、バンドネオンがソロでFly me to the moonを引用したのを聴いて、「あー、さだるで歌いたいな」と思った。ステージを振り返って見る席だったので、1/3くらいの時間、壁の大きな鏡に写る菊地さんを眺めていた。そして、時々、蠢きそうな天井のひだを眺めては、「もうすぐここは無くなってしまうんだな」と切ない気持ちになった。ペペ・トルメント・アスカラールの演奏は、そんな切ない気持ちの中に染み入ってくるものだった。

 アンコールで、もう一つのお楽しみ、MCが入った。今日の菊地さんは「何はなくとも!」がお気に入りワードだったらしく、何度も連発していた。完全に躁状態の半笑いのまま、いい加減な話をまくしたて、本当に面白かった。やっぱり旬っぽさを感じる何かがないと、MCは駄目だと思う。

 私と松村君は、もう仲直りするに決まっているんだけど、まだ怒っていたかったので、お茶もせず駅まで一緒に歩いて、私は一人で湘南新宿ライナーに乗った。