『ストラルドブラグ Struldbruggs〜魔神邂逅〜』

 先週末、ペナとR:MIXのお芝居、『ストラルドブラグ Struldbruggs〜魔神邂逅〜』を新宿 スペース107に見に行って来た。

 私はこれまでにファンタシーもののお芝居を観た事が1度だけあった。職場の同僚が出演していたので、付き合いで観に行ったのだ。感想は、と言えば、正直、私はプロローグのシーンから引きまくっていた。観ているこっちが恥ずかしいのだ。だから、観に行くまでちょっと(ちょっとだけ)不安に思っていた。出演する役者陣も、評判の良い人ばかりで、不安に思うなんて、本当は失礼な事なんだろうけど、やっぱり、痛い目に遭うと怯えたりするじゃない。そんな感じだった。

 ペナは観劇自体、「10年ぶり」と言っていた。R:MIXのサイトを見て受取った印象からすると、普段の彼のライフスタイルからかけ離れた世界のように感じたので、彼にとっても楽しめるものになるだろうか……と不安に思っていた。なんせ、締まり屋のペナの事、前売り4,500円とそこそこの値段のこの芝居への期待は、それなりには上がっている事だろうと容易に想像出来た。

 前置きが長くなった上に、もう次に書く内容がバレバレだが、本当に良かった。あっという間に世界に引き込まれた。それは役者の度量に他ならないとも思うが、とにかく、脚本が良かった。原作&脚本の時田貴司さんは、ファイナルファンタジーなどをやっている人で、その世界の作り込みや、広げ方に隙がない感じだった。私は、芝居に限らず、ドラマでもゲームでもを観ていると、「あぁ、作ってる人はここが好きなんだな。無駄に長い」と思う事が度々あるが、この作品にはそれがなかった。沢山のドラマが盛り込まれているにも関わらず、それら全てが適切な長さを保っていた。

 地味な感想だが、名前の付け方も好きだった。タモさん的発想だが、出演者全員日本人なのに、横文字の名前が付くのにも少々違和感を感じる事もあるのだが、殆どの出演者は、役所に近い名前が付いていて覚えやすかった。主役のガープは堕天使、セレスは豊穣神、聖母子の幼児を表すホルス、ユピテル(ゼウス・土星)とその周りに居るメティス(知恵・土星小惑星)、そしてそれらを撃つ、マルス(軍神・火星)。私が一番ぐっときた名前は、セレスの持つカメラの名前、クオレ(心)だった。どんなに、多くの暗黒や陰謀やにあっても、自分の心だけは偽る事が出来ない。それは、自分が背負う十字架と一緒だ。「この子に本当の世界を見せてあげたいの」。クオレは、セレスの中の純真そのものを表していたんじゃないかな。

 そして、40曲もの曲で構成された音楽が、舞台上を鮮やかに彩り、観ている者の心に世界を描いていた。40曲だと知ったのは、最終日にあったスペシャルステージを見に行ったからで、それまではそんなに沢山の曲が使われているとは気付かなかった。しかも、全部オリジナルみたい。本当に凄かった。たぶん、DVDが発売されると思うので、もう一度観るのが楽しみだな。

 清田愛未さんの歌う主題歌「名前」(試聴)も良かったなぁ。あ……、やっぱ、このお芝居は名前が気になるように出来ているのかも知れない。この曲は、“自分の名前を名乗りたくない報道カメラマンが、「好きな名前で呼んだらいいでしょ」と言い、ガープに自身の母親を付けてもらう”というエピソードから来ているそうだ。“相手をなんと呼ぶか”という事は、二人の距離を決める。女を、自分の母親の名前で呼ぶなんて、「どんなマザコンだ!」と言う気もしない。実際、年齢や外見的には、父(ガープ)、母(セレス)、息子(ホルス)と言うことになるのだろうけど、スペシャルステージで勝矢さんが、「ガープとホルスがセレスの子供」みたいな事をちらりと口走っていて、倉田知美さんが「ちょっと!」とツッコミを入れていたが、この感想を書きながら、その捉え方も「アリだな」と思う。思わずアンケートにも書いてしまったが、最後のシーンの倉田知美さんは、際立った母性を表現しつつも、気高く美しく、まるでミケランジェロのサン・ピエトロのピエタで表現されるマリアのようだった。二人を抱える両腕は、まさにイエスを抱いた腕に見えた。

 みんなが書いてると思うけど、主役の少年ホルス役を演じた小島愛ちゃんも凄く良かった。負の感情を持たないという偏りを、強く強く印象づけた最後に、感情を出して叫ぶシーンでは、つんざくような声に、会場全員の涙ボタンが押されたに違いなかった。あれは、ぶるっと来たな。その他にもこの作品には、泣かせポイントがいやらしくなく散りばめられているのです。また書くけど、本当に話が良かった。

 スタジオライフファンのK嬢から、「船戸慎士さん(法王役)レポをお願いします」と言われていたので書きます。まず、すごい髭こちらより。最初にそれかよ!って言われそうですが、ヴィジュアルから入っちゃうのは、この場合仕方ないんじゃないでしょうか。だって凄いんだもの。本当に最初から最後まで悲しい法王役でした。しかし、薬漬けになっても高貴さは失わない。そこがまた切なかった。噂の声も凄い良かった。危険な声ですわ。まぁ、とにかく、今度ライフも行きましょう(K嬢)。

 こんな調子で、全員書いてるとキリが無いので(みんな良かったから)、最後にテロリスト『コギトエルゴスム』(“cogito ergo sum" 我想う、ゆえに我あり <ルネ・デカルト>)について。コンタさんから、「藤田信宏さんの殺陣が本当に凄い」と聞いていたので、凄く楽しみに観た。や、本当に凄かった! あんなに長い戦闘シーンの後半で、あんなに高く飛んで、なおかつ次の動きがしなやかに続いて行くなんて。人間業とは思えない。流石、リーダー。格好良かったぁ。南口さんも、強さの中に柔らかさがあって、正に女が惚れるタイプの女性だった。

 私にとってコンタさんは、お笑い芸人だという印象が、いつまでも強い。こんな硬派な芝居の中で、一体どんな風になってしまうんだろうか、と想像出来ずに観に行ったが、ちゃんと世界の中に居たし、コンタキンテだった。厳密には、芸人コンタキンテではなかったけど、全然違う人ではなかった。実戦派であるため、「地味だ」と言われていたコンタさんの殺陣も、藤田さんとの対比で見れば、ちょうど良いような気もした。武器も違うし。違う人と言えば、スペシャルステージで、コンタさんはリベンジとしてチンチン電車』をやった。私の隣の席に座っていた3人は、小島愛ちゃんの友達らしく、見るからに10代。10代の女の子には、笑いにくいネタだと思うわ。ちょっと可哀想だった。とは言え、男性陣には大ウケ。『爆笑かドン引きか、』。正にその通りの客席。しかし、人事ながら恐ろしい「挑戦」だ。とんでもない十字架を背負った男だな、と思った。

 芝居を見終わって開口一番のペナの台詞は、「わぁ〜、凄い良かった」だった。私も、この芝居を友達を観る事が出来て良かったと思う。もう一度、改めて書くが素晴らしい作品だった。

 それから、近くの居酒屋に移動して、感想や近況を話し合った。1時間程して、コンタさんも合流して3人で飲んだ。私の終電の時間になって店を出ると、倉田さんと松木威人さんと勝矢さんが居て、お別れの挨拶をしていた。さっきまで「聖母マリアのようだ」と思っていた倉田さんは、すっかり男のような仕草で陽気にゲラゲラと笑っていた。「ああーー(略)」と思ったが、まぁ、得てしてそう言うものだな。