固有名詞を入れず書く事を

 この間の日記で宣言した訳けど、……難しいよね。この人が言ってるから面白い、って言葉があるものね。でも、「あぁ、駄目だ。固有名詞無しで書くなんて!」ってなるまでは、それを続けてみよう。伏せ文字にしても、分かる人には分かるんだし。

 Nが、また赤プリのスウィートに泊まっていると聞いて、この間のデート中にTがNを、会った事もないのに何度も大絶賛していた事を思い出した。

 「Nさんを紹介して欲しいんですよ」
 「ん? 紹介?」
 「Nさんって、ほんと、凄い人だと思う!」
 「例えばどんな所が?」
 「康乃さん、すぐ『何か面白い話してよ』って言うじゃない。その時、Nさんは100%、さりげなく面白い、もしくは気の効いた事を言えるじゃない! それが凄いよ! 本当に尊敬する。俺なんか、帰りの電車の中とかベッドの中で『ちくしょう、あの時、こう言えば大爆笑だったのに』って何度地団駄を踏んだか分からないもん」
 「あはは。まぁ、Nは凄いよね。私もいつも感心する。感心しつつ、安心して無茶な事言ったりしてるよ。そういうTだって、結構面白い話してくれてるじゃない。大抵、楽しいよ」
 「それだけじゃなくて! この間、Nさんが赤プリのスウィートに泊まってた時に、康乃さんに『泊まりにおいでよ』って言った後の言葉が凄いと思った。『部屋が3つあるし、お風呂も二つあるから、何なら別々の部屋で眠ってもいいし』ってさ!」
 「……何処が、凄いの?」
 「俺には言えない!」

 じゃぁ、Tなら何と言うんだろう? 特に興味が沸かなかったので訊かなかった。今日のNは、何故か弱音を吐いていて、不思議な感じがした。メールの文章の中からけだるさを感じて、何故かKが数日前に送ってきた泣き言を思い出した。「今日は、一日中女の子のサンダルの底を拭いてるんです。誰も撮影用のサンダルを持ってきてくれないんです。泣きそう」。もしも、Kが涙を落としたとしても、誰も見て無さそうだ。


 ヴァレンタインデーだったけど、特別な事は何一つ無かった。少し緩んだ雨が降った所為で、Gパンの裾をじっとりと重くした。部屋中に、PRADAのパフュームを噴いて、Tがくれたチョコレートを摘んでいる。