熟年社交ダンスの世界

 先々週末も先週末も、社交ダンスの添乗に行った。社交ダンスに来るPAXは、気難しい人が多いという噂を聞いていたので、ドキドキしながら出掛けていったのだけど、そうでもなかった。

 先々週末のは、老人会の一つのサークルのご一行。平均年齢70歳でありながら、男女共に朝から飲む飲む歌う歌う。自称“男芸者”の村上さんと会長の佐藤さんが煽るので、本当にどんちゃん騒ぎ。こんなに酔っぱらって、夕方のパーティと夜のパーティで踊れるのかしら?と思っていたのだけど、ホテル到着1時間後に現れた人達は、まるで別人のよう。しゃんと背筋を伸ばして、ゆったりとにこやかに踊って何だか素敵。一緒に来ていた先生に所々直してもらいながら、踊ったり、ポーズを決めて写真を撮り合ったり……。でも、宴会になると、伝統的な日本風宴会の盛り上がり方なのね。演歌を歌ったり、ひょっとこ踊りをしたり(苦笑)。

 先週末のは募集型。ひとり参加が多くて、ちょっと合コンっぽいの。パーティでの服装も、ご一行の10倍くらい気合いが入っていて、艶やかだった。汗もかくし、女性PAXが3回のパーティで3つの衣装を着るのは、結構あるかなぁと思っていたけど、意外にも男性も夕方、夜、昼でのシャツの選び方がさり気なくて良かった。夕方はちょっとラフ、夜はちょっと鮮やかな色遣い、そして朝は爽やかな雰囲気で。香水の量や付け方も変えていて、それが礼儀として行われているような雰囲気に、小さくカルチャーショック。そして、改めて、私は香水が好きだなぁと思った。

 夜、パーティもたけなわになった頃、ミキシングをした。ミキシングは、男女が左右に並び、先頭の二人がホールの端から端まで踊ったら、また列の後ろに並ぶという遊び。色々な人とどんどん踊って、踊りながらお喋りをして、親交を深めるみたい。艶やかな装いで踊る人達を眺めながら、私は全く蚊帳の外にいて、まるでTVを観ているような気持ちというか、「ここは何処だろう」と思った。「ラストダンスは私と」みたいな事は、宿泊だから無いのかな。夫婦で来ていても、奥さんだけ先に帰ってしまう、と言う姿は結構見られた。

 私も仕事の合間、大正生まれの田畠さんにダンスを教わる事にした。男性が余っていたし、教えるのがとても好きそうだったから。ワルツで手を合わせると、しっとりと柔らかな手が暖かくて、ちょっとビックリした。普段、人と手を合わせる事が多いから、やはりお手入れは欠かさないんだろう。「年を取ったら、ダンスぐらい上手じゃないとね。だって、ダンスが上手くなかったら……、ただの老人だろ? ただの老人じゃモテないもんな。で、若い子と楽しく踊るんだよ」と言ってウインクした。「うふふ。モテるでしょ」と私が言うと、「ははは。ちょっと。ちょっとな」とにこやかに笑った。21時を回った頃、夫婦で私の所に来て、「じゃぁ、お先に」と言いながら会釈をし、田畠さんは奥さんの腰を軽く支えるように押してエスコートした。「なんてスマートなんだろう」と思った。