体育会系を目の当たりにする

 先日、某々の某を終了した記念旅行を添乗したのですが、それが凄まじかったのです。某々であるので、勿論ご一行名は仮名で『Sスポーツクラブご一行』となっていました。私には、カメラマンアシスタント時代という物がありましたけど、この某々の世界は超体育会系最右翼(苦笑)の集団だったので、素でビックリする事の連続でした。打合せに行った時、予めいくつかの予備知識は与えられたのですが、全てが予想以上でした。

 寮生活である彼等(20〜28歳)の所へ、45名乗りのサロン型バスを6台で向かい、朝の8時10分には最初の乾杯がなされていました。「乾杯とは〜」「飲み干す事である!」「乾杯!」の掛け声と共に、全員一気……。ここは、昭和ですか? 大変な所に迷い込んでしまったと青くなりました。乾杯の後、いつもの朝の挨拶をマイクでさせて貰うとすぐサロン席に移らされ、車内で一番偉い人の斜め前に座る事となりました。私もビールを持たされ、また乾杯。勿論、8時半前ですよ。「浅草で有名な店の美味しいガツだから、どうぞどうぞ」と、割り箸を渡され、キョロキョロしながらも頂きました。

 8時半頃になると、車内で3番目に偉い人がマイクで、「今村、歌え」と言うと、カラオケタイムが始まりました。ほぼ全員がガン飲み。お手洗い休憩は1時間おき。それでもお手洗いが我慢出来ない人は携帯トイレです。私の視界の中にいる人が、使おうとしたので、「失礼しますっ」と言って、前の席に移動しようとしたんですが、バス車内は、本当に滅茶苦茶な状態になっていたので、最前列までは移動出来ませんでした。と言うか、途中で男の子に掴まってしまい、質問攻めに合っていたので、それどころでもなく……。

 旅行の間、一行の全員の中で、3番目に偉い人にやたらめったら気に入られてしまいました。「お前、綺麗な顔してるな」と言われたので、「あ? 有難うございます」と答えたら、「褒めてねぇよ!」と言われました。意味不明です。私の仕事は、全体250人全てにまんべんなく同じ対応をして、楽しんでもらう事なのに、この骨の髄から体育会系の男は地位を利用してだか何だか分かりませんが、「2日間は俺のそばにずっと居るように」と言いました。「それは出来ません」と笑いながら即答すると、軽く驚いていました。こっちも驚きました。

 9時から1時間も海ほたるにいました。通常30分くらいの滞在ですから倍。私達も暇でしたが、今夜は長くなる事が予想されたので、乗務員が無料で貰えるメロンパンの他におやつも買い込みました。

 バスに乗ると、更にカラオケは続きました。デュエット物を何曲か歌わされる事となったんですが、自分のレパートリーの少なさに本当に辟易ました。古い歌、つまり演歌みたいなデュエット曲しか分からないので、歌うのが嫌になったのです。オマケに、シモネタの替え歌にされたりとかして……。まだ、10時台だって言うのに。いつもデュエットを頼まれても、「知らない」と言って逃げられていたのに、こんな風に状況的逃げられない事もあると言う事が分かりました。せめて、「愛が生まれた日」くらいは歌える様にしたいと思いました(苦笑)。

 11時頃ににマザー牧場に着きました。、ジンギスカン食べ放題の昼食です。朝から、あんなに食べて飲んでいたのだから、ここではそんなに食べられないだろうと思っていたんですが、“Sスポーツクラブご一行”の底力を舐めていました。みんな、メチャクチャ食べて飲んでました。一人中瓶ビール1本を目安に予算を組んでいたんですが、そんなの軽く100本くらい越えてました。企画担当は泣いていました(苦笑)。

 みんな酔っていたし、沢山居すぎて(苦笑)本名がよく分からなかったので、私も途中から参加者をあだ名で呼んでいました。あだ名は、見た目に準じた物が多かったので、覚えやすいのです。「チャーリー」とか「ジーニー」とかは言いやすかったんですが、「火星人」というあだ名はちょっと呼びにくかったです。でも、呼ばれて嬉しそうにしていたので、「いっか」と思いました。

 私達のマザー牧場での昼ご飯は、食堂のメニューでした。私は、名物「ミルクラーメン」を食べました。コーンクリームスープからコーンを抜いて、ラーメンを入れた様な味です。普通味(苦笑)。外の緑を見ながら食べれば、数倍美味しいと思いますが、乗務員室だったのでぇ……普通味。それから、ブルーベリー・ミックスのソフトクリームも食べました。普通味(苦笑)。製造器の設定温度が低いのか、ブレンドがイマイチなのか、作りたてから柔らかくて形が崩れてました。

 それから、またバスに乗ってカラオケ大会。私はとうとう企画の乗ったバスに呼ばれ、乗せられる事となり、社員さんをバスから追い出す事に……。この旅行中何度も思いましたが、「私はホステスじゃないのになー」と。まぁ、ホステスさん程の仕事は出来ないんですけど。

 15時にホテルに着くと、あんなに飲んでいた男の子達の半数は、ホテル内のプールに移動し遊んでいたそうです。私達は勿論、今夜から明日に掛けての打合せです。勝浦の三日月に泊まったんですが、飲まされたと言う事もあり、出してくれたアイスティが本当に美味しかったので、「美味しい!」と思わず言ってしまいました。

 17時半になると、宴会場に人が集まり始めました。宴会の途中で行なわれる、各チーム(バス)毎の出し物のリハーサルです。流石体育会系と言うべきか、リハーサルから真剣で笑えました。宴会は18時15分から始まりました。何度も書きますが、本当にみんなよく飲むので、仲居さんと15人でビールや飲み物を配りましたが、落ち着くまでに1時間近く掛かりました。

 チーム対抗の出し物大会。中座して夕飯を食べさせて貰ったので、全部は観ていないのですが、概ねダンス、それも基本的に水着や褌なとの露出系ファッションでした。若くて肉体に自信のある男の子ばかりが揃えば、納得の状況ですが、やっぱり私は慣れなくて軽く戸惑いました。賞とは関係ないスペシャルゲストと言う事で、何人かのサブリーダーのような人達の歌もありました。その人達も全員、気合いの入った衣装と踊りとパフォーマンスで、会場を総立ちにさせました。優勝は、ウォーターボーイズと小力パラパラの融合ダンスを披露した4班でした。これは本当に良かったので、納得の結果でした。宴会場の外で観ていた大勢の見物人も、「面白かった」「中で観たかったわ」と口々に言いつつ解散していました。

 20時半からは2次会となり、各班別の宴会場へと分かれました。殆どの班でコンパニオンのお姉さんを呼びました。土地柄なのか、若いお姉さんは半数くらいで、中には50代のお姉さんも居たりして、「息子の友達にそっくり」と言われた男の子は困っていました。どうしようもないのですが、勿論クレームです。私は企画じゃないので怒られませんでしたが。

 23時になって3次会が始まりました。私は、例の3番目に偉い人Sさんの2次会宴会場に呼ばれていたのですが、2次会の仲居が足りなかったのと、妙な好かれ具合が恐かったのと、その宴会場にはコンパニオンが18人も居て、一見して席もいっぱいの様に見えたので、会場には行きましたけどソファには座りませんでした。勿論、どの班の宴会にも参加しませんでした。飲み物のケースを運び込む為に入りましたが。

 そんなに宴会場の中を覗きませんでしたが、やっぱり何人かの男の子達は脱いでいました。……というか、コンパニオン達に脱がされている雰囲気でした(苦笑)。女の方が楽しんでるなぁ、と言う感じで、金を貰いながら、この人達は酷いなぁと思いました。まぁ、私は水割りとか作れないですから、言える立場じゃないのでしょうけど。

 恐ろしい事に、「3次会に参加しろ」と言われました。そ、そ、それは無理! 眠いもの。日雇い労働者として守りたい権利です(苦笑)。企画の人を呼び、部屋に帰してくれるよう一緒にお願いしました。何度もお願いしてやっと、「まぁ、いいや」と言って貰えました。「でも、明日ずっと一緒に居ろよ」と言われて、安心してしまったのか、思わず苦笑と共に「ずっとっていっても、明日は殆どディズニーシーですけど」と、言わなきゃ良い様な事を言ってしまいました。「え? シーにお前も行くだろう?」「入り口までお送りして、駐車場で待機ですから……」「何ー! じゃぁ、チケット代出せばいいんだろ」。……そして、2日目の休憩時間はなくなったのでした。

 ともあれ、廊下で男の子達に延長のおねだりをしているコンパニオン達の間を縫って(苦笑)、私は部屋へ戻り、24時に閉まってしまうパノラマ大浴場へ滑り込む事が出来、両手両足を伸ばして、大きなお風呂を堪能しました(相部屋で連添のT/Cは、ぶっ倒れて速攻眠っていました)。三日月の大浴場の女風呂は男風呂の上にあるので、たぶん男湯が覗けます。目が悪いので見えなかったんですけど、たぶんあれは男湯だった様な気がします。

 3次会はそのまま午前2時頃まで続いたらしいのですが、7時から始まった朝食は、誰も遅刻して来ませんでした。本当に潰されていた人が何人も居たのに! 改めて、体育会系の恐ろしさを知ったのでした。何度も書きますが、本当に彼等はよく食べるので、通常は天丼などを入れる器にご飯を盛って出して貰ったんですが、お代わりをする人が何人も居て驚きました。この旅行、私は驚き過ぎたとも思いましたが、本当に何度も驚きました。

 2日目もバスに乗ると、朝から宴会が始まりました。「昨日、3次会に来なかった者、椅子の上に中腰! オイ、飲み物を配れ」。また昭和が展開されていました(苦笑)。

 そしてまたカラオケ大会。今日のカラオケ大会は、ゲームがプラスされました。一人が歌っている間に、それ以外の人がタオルを首に結んでほどいて回すの。曲が終わった時にタオルを持っていた人が、一発芸をやって次の曲を歌うと言う物。とっさに考えたゲームの様だったけど、地味に面白いな、と思いました。

 私も歌う事になってしまったので、こういう所でいつも歌う歌を選曲しました。ドリカムの「晴れたらいいね」。今まで、この曲でこんなに盛り上がった事があっただろうか、と言う盛り上がりをしてもらいました。アイドル並み(苦笑)。野太い声の合唱で「やすのー」と呼ばれ、『あぁ、アイドルの人達は、こういうのが気持ちいいんだろうなぁ』と思いつつ、軽い恐怖感を覚えていました。歌い終わった後、ドライヴァーさんに、「あんた、相当カラオケ行ってるね」と言われました(苦笑)。もう15年くらい歌っている十八番ですからねぇ。

 ディズニーシーに着き、私は観念してSさんのお供をする事にしました。ビクビクしつつこの時を迎えたのですが、酒の抜けたSさんはとても紳士的なディズニーリゾート通で、「お前が俺を接待するんだからな!」と言いつつも、道々アトラクションやキャラクター、コンセプト、オリジナルグッズに至るまでの解説をしてくれました。

 お供の男の子7人の中に、私以上に絶叫物が苦手な男の子K君が居て(他の男の達は哀川翔似と言っていたけど、私は竹内力似だと思った)、私はSさんと一緒にその子をからかって一日を過ごした。全身白くてピッタリした服を着、ヴェルサーチのサングラスを掛けて居て、ファッションについてコメントを求められたんだけど、元々ファッションには疎いのでー、褒めました。褒めたら、みんなにブーイングを喰らいました。むむむ、やっぱりファッションって難しいな。

 段々、皆に慣れてくると、いつもの毒舌が出まくってきてしまい、Sさんや皆に「お前は酷い!」と何度も言われましたがゲラゲラ笑いながら楽しんで貰えた様でした(希望)。

 一緒に回った男の子達もそうだけど、すれ違った子達もみんな子犬の様に遊んでいて、本当に可愛かったなー。一緒に、かぶり物を被せ合ったり、おもちゃで遊んだり、噴水の前ではしゃいだり。ディズニーファンのH君は、お昼ご飯でミッキー型のプリンを先輩に買って貰ったのに食べられず、じっと見つめ、「これは、プリンの液を型に入れて作っただけの物だって分かってるんです。分かってるんですけど、でも……。…………(目を瞑って)えいっ!」と言いながら、ミッキーの顔の所だけを小さくスプーンですくった時、私は悶絶死するかと思いました。アクアトピア(水上のコーヒーカップのような乗り物)でK君が、入り口の係員に「これ、ボナセーラと同じですか?」と真顔で訊いていたのにも受けました。いくら絶叫マシンが苦手だからって、それじゃ係員には分からないって。ゴンドラに乗ると、無理矢理「ボナセーラ」とか「チャオ!」とか言わされるのは、係員は知ってるかも知れないけど、私達がさっき、ゴンドラに乗ったなんて知らないし、ましてやゴンドラの事をボナセーラとK君が呼んでいるなんて知らないんだからさ(笑)。

 朝、私は一番偉い人のバスに乗っていたのですが、帰りのバスはSさんのバスに乗る様にその場で言われました。今日一日楽しかったので「はい。……たぶん」と答えたのですが、集合場所に戻ると、やはり私は偉い人のバスに乗って、帰りの挨拶をする様に企画に言われました。「あぁ、また逃げたと言われるな」と思いながら、言われたバスに乗って待っていると、やっぱりそう言われました。

 気を取り直して、そのバスを盛り上げる様務めました。昔、マギー新司かなんかがやっていた「ハンカチから(偽)鳩を出すマジック」を披露したりして、「かわいー♪」とか言われたりしたりしました(苦笑:こんな10歳くらい下の男の子達に言われても良い台詞なんでしょうか。申し訳ない。言葉に申し訳ない。っつーか、皆の方が、100倍可愛かったって)。そして、帰りにビールとかお菓子とか何故か折詰めの生わかめ1kgとか「お世話になりました」と言われつつ貰って帰ってきました。

 寮に戻る頃には、男の子達は全員着替えて居ました。門を潜る前、私の隣に座っていた男の子が、慌ててシャツの裾をチノパンの中に入れていて、ハッとさせられました。

 実質的には休み時間の無かった私でしたが、シーでは本当に楽しんでしまいました。企画に「本当にお疲れさま。これに懲りず、また宜しくお願いします」と申し訳なさそうに言われましたが、私はお腹の底から笑って過ごしていたので、逆に元気になったくらいでした。たまには、こんな楽しい事があっても良いよねぇ……。な〜んて。