Hommage aux Grands Chefs (1)

 感想を書き始めるのに1週間以上経っていますが、食いしん坊という種類の人間は、美味しい物を食べた時の記憶をいつでも取り出せるものなのです。今回の食事会で一番饒舌に語って要らしたHさんの、幼稚園の時に初めて食べた河豚の話はとても鮮やかで、聞いているこちらまで高揚した気分にさせられました。


 9/22、大崎の『La Fee Claire(ラフェクレール)』へ伺った時の話の続きです。テーマ:小川シェフの『ぼくが尊敬する料理会の大先輩に捧ぐ』

 今回のは、ジュモーの写真をいつも撮ってくれているフォトグラファー新木さんと一緒に食事会に参加しました。しょっちゅう食べる訳ではないみたいですけど、フレンチ大好きの新木さん(というか、食べる事全般に好き)。ふたりで楽しみに伺いました。

 約束の時間に着きテーブルを見ると、セッティングされたカトラリーの間に、朱雀さんがこの食事会の為に作った資料が置かれていました(写真)。全9頁。私の様に知識の浅い人間にも、今回のテーマの奥深さに少しでも近付けるように配慮して下さったんでしょう。参加者の皆さんから感嘆の溜息混じりに、「凄い資料ですね」と言われ、朱雀さんは苦笑いしながら「仕事の手を止めて真剣に作っちゃいましたよ!」と言っていました。

 今回は、小川シェフのお話があまり聞こえない席に座っていたので、いつもよりも料理だけに集中したようなスタンスになりました。



   ヌーヴェル・キュイジーヌ十戒

1. 火を通しすぎるな
2. 新鮮で質のいい材料を使え
3. メニューを軽くせよ
4. なにがなんでも新しがりになるのは慎め
5. しかし新しいテクノロジーのもたらす益は、探せ
6. マリナード、フザンダージュ、醗酵を使うのは避けよ
7. ブラウンソース、ホワイトソースは捨てよ
8. ダイエットの観点を忘れるな
9. 盛り付けでごまかすな
10. クリエイティヴであれ

     (Gault Millau(ゴー・ミョー)*1 1973年10月号より)


 フルートグラスにBRUT de CANTENEUR CHAMPAGNEが注がれ、朱雀さんの「ヌーヴェル・キュイジーヌの料理人達に」という言葉と共に乾杯がなされました。シャンパンを口に含むと、めしあさんは嬉しそうに目を見開いて言いました。「わぁ、これ、凄い好みの味だ。クリーンで深くて……」。ソムリエの福永さんがにっこりと微笑み「Gossetがお好きだと仰ってましたから、きっと気に入って頂けると……」と言うと、「覚えていて下さったんですね。いやぁ、感激だなぁ。凄く美味しいです」と言ってめしあさんも微笑みを返しました。

 小川シェフがテーブルにやってきて、今日の趣旨について簡単に説明しました。「今日出される料理は、全て過去の尊敬すべき先輩大料理人の代表メニューを準えている事」、「しかし、レシピについては完全にコピーせず、コースの流れを大切にしながら、自分(小川シェフ)のイマジネーションによって作る新しい料理(Nouvelle Cuisine)であるいう事」。小川シェフはとても緊張しているようで、笑ってはいましたが、前回のブルゴーニュ料理の時の爽やかな笑顔がそこにはありませんでした。

 いつもなら、乾杯をしてから3分以内にアミューズが出てくるのですが、今日は10分近く経っても一皿目が出てきませんでした。「今日は、ゆっくりですね。」と私が言うと、めしあさんが「でも、こういう時、僕等のような食い意地の張った人間は、いつまでもワクワクしながら待っていられますよね。コースを頼んで、すぐに出てきたりすると「ホントにちゃんと真面目に作ってるの?」って思っちゃいますから」といい、ゆうさんが「凄く、気合十分の皿が出るんでしょうね。楽しみ」と微笑みました。お酒に弱い私は、楽しみにしながらも、香りの豊かなシャンパンで必要以上に酔ってしまいそうでした。


 アミューズは、じゃが芋のピューレとブロッコリーのリゾット(Purée de pommes de terre , Risotto aux brocoletti)(写真)。ピューレ(写真左)が、Joël Robuchon(ジョエル・ロブション)へ。そして、リゾット(写真右)が Alain Ducasse(アラン・デュカス)へ。

 朱雀さんが、「ロブションとデュカスは、厳密に言うと、ヌーヴェル・キュイジーヌ……、特に聡明記に言われている様な条件にあてはまる料理人では無いと思うんですけど、大雑把な括りで言えばギリギリ入れても良いかな、と言う所に居るかなと言う事で、今回のオマージュを捧げる料理人の中に入れる事にしました。一番最初の皿が、一番新しい料理人達、という趣向も良いのではないか、と思って」と言っていました。

 ピューレはジャガイモの優しさが溢れている味わい。ジャガイモとバターの量はほぼ同量との事! 調理法の所為なのか、ちっとも重くないのです。写真では伝わらない華やかさがありました。リゾットは、全体的に固めの仕上がり。火は通ってますが、全てにしっかりとした歯応えが残っているのです。めしあさんが、「この量だから、この火加減がベストなんだな。自分ではこう出来ない。火を通しすぎてしまうと思う」と感心しきりで食べていました。


 10/10へ続く。

*1:料理批評家Henri Gault(アンリ・ゴー)とChristian Millau(クリスチャン・ミヨー)の二人の名前を合わせた名称の料理ガイド誌。パリにあるホテル・レストランを料理の味のみで20点満点で評価。