愛人達の話を苦笑しながら聞く

 「レストランとその常連の関係は、愛人とパトロンの関係に似ている」。そんな話を飲みながらしていた。


 Aさんは、Bさんのレストランに惚れ込んで、何年も、週に2〜3日程通っていたらしい。しかし、そのうち通う回数が減り、あちこちのレストランに行くようになって、最近はCさんのレストランに通う回数がぐっと増えたらしい。

 Bさんは「Aさんは、私の店に頻繁に来ていた頃はあんなに太っていなかったのに。CさんがAさんを駄目にしている」的な話を、嫉妬に狂った目で共通の友人にこぼしているようだ。共通の友人達がAさんに「Cさんの店は、言ってみれば愛人宅なんだろ? いつかは、本妻の所に戻るんだよな?」と冷やかし気味に訊くと、「レストランに愛人とか本妻とか言う言い方は止めてくれよ!」とかなり本気で怒るらしい。

 そう言われると、レストランは愛人に似ていると思う。予約する事はあっても、大抵客は気まぐれにやってくる。「本当に美味しかった。また近いうちに来ます」と言って帰っても、“近いうち”がどのくらい近いのか分からない事は多い。ただ皿の上にラヴレターを表現するのみなのだ。「私を愛して」と。


 この話を聞いて、私は二人の男を思いだした。一人はNという、前に居た会社の先輩で、就業時間後に愛人二人が会議室で「どっちが愛人1号なのか?」と言う、外野には全く持って下らないとしか言いようのない内容で、朝まで揉め……(面白いけど略)、そういう男。もう一人は、Kという大学時代の先輩で、愛人が一番多い時期で11人居たのに、女同士は(顔見知りであっても)殆ど揉め事を起こさないという男。愛人同士が揉めるか揉めないかと言うのは、偏にその性格に寄るものなのだ。つまり、Kの愛人達が何故揉めないのかと言うのは、Kの選ぶ、若しくは好む所の女はことごとく“愛人向きの性格”を持っているからに他ならない。


 一旦、レストランとその客の話に戻る。かく言うパトロン達だって、基本的には「いつでも君を愛したい」と思っている事にしていても諸事情ある。Dさんが、友人を連れ、お気に入りのレストランで食事をした。友人達は「凄く美味しかった」と言いながら、帰り際こんな事を言ったそうだ。「本当に素敵なお店をご存じですね。これからも、こんな風に美味しい店を一緒に探して食べ歩きましょう」。Dさんは、その言葉を聞いて冷や汗をかいたらしい。「だってそうでしょう? 『私の恋人を紹介します』と言って、友人に引き合わせたら、『女性の趣味がいいですね。これからも、いい女を探していきましょうね』なんて言われているのと同じなんですから。後で私はレストランに対して、『君が一番だよ』とか『君より素晴らしい女は居ない』とか、そんな様な賛辞の言葉の限りを尽くさなくてはならなかったんですよ」。

 私は、Dさんの言葉を微笑ましく聞いた。そう言うDさんは、自信家で、嫉妬と愛情が深く、欲求と探求とメッセージが率直な、いつでもドキドキを味合わせてくれる、そんな女(料理)が好きなのだから。そして、N先輩もああいう女が好きなんだろうな、と思う(とは言え、愛人の子供達は認知しても、愛人と本妻は揉めない)。


 とか書きながら、私も「あの人は、今回ライヴ来てくれないのか……」とか、しょんぼり思うので、レストランの気持ちはよく解かる。そして、西代彩ちゃんのファンクラブに入ったのに、いつもライヴ会場が大嫌いな無力の為、全然行ってない。あやたん、ゴメン……。あの店には結界が張られてるんだよ!(嘘)