soi music in Tokyo from Bangkok

 夕食を終えて、3人でCAYへ行くと、正にたった今、前のFutonの演奏が終わったという所でした。どの辺りで見ようかと、少しだけ考えましたが、今日の菊地さんのパートナーは、『本日限りのモデルの女の子』だと、前もって日記を読んでいた松村君に聞いていたので、やはり前の方にしようと、皆で移動しました。会場は、既に十分に暖まっているという感じで、DJタイムに入って直ぐは、汗だくになり満面の笑みで大声を上げる人達が沢山いらっしゃいました。

 程なくして、SPANK HAPPYの出番。白いシャツのボタンを3つ外し、大きなクリスタルの付いたデコラティヴなネックレスがよく見えるように胸元を露出した菊地さんを従えた、ドミニク嬢代理のモデル(年齢・国籍・性別不詳)が登場しました。モデル嬢は、Patrick Nagelの描く女性の様な風貌で、シンプルな黒いドレスにパールのネックレスをし、厚い唇を軽く突き出して、不機嫌そうな表情を作っていました。あぁ、モデルだ。プロのモデルだなぁ、あはははは、でも凄い出来てる、という感想でした。

 殆ど動かなかった彼女の、私は何処を見ていたかというと、脇の辺りでした。「そこに出来た薄っすらとした皺は、きっとブラジャーをしている事で出来るものなんだろう。だとしたらどんなタイプのブラジャーをしているんだろうか。あぁ、これってちょっとセクハラっぽいかな。でも、同性だから良いか」なんて事を考えながら、ジロジロと見ていました。

 一曲目、瞳ちゃんヴァージョンの「FAME」がかかったので、今回は日本人だから(あくまで予想ですが・苦笑)そちらで通すのかな、と思いましたが、2曲目の「子供達はロシアで遊ぶ」はドミニクヴァージョンでした(苦笑)。まぜまぜです。このままダラダラ進んで、スパンクスじゃない曲もさりげなくやってくれたら面白いのにな、と思ったんですが、さすがにそれはやりませんでした。

 最初に菊地さんを見た時からずっと、確かに一人だけやたらと張り切って踊り続けていたのかも知れませんが、ここ数回は特に強く、自虐的にすら感じる程のはしゃぎっぷりが、際立っていた様に感じられていました。しかし、今回は何かが違っていました。

 以前、菊地さんが日記で、「DCPRGで、オーディエンスに背中を向けてはいるが、メンバー達のキラキラ輝く瞳を見れば判る」と言うような事を書いていましたが、正にそんな感じでした。菊地さんの瞳があまりに輝いているので確信はしていましたけれども、念の為、振り返って見てみました。何なんでしょう。これがSPANK HAPPYのライヴなんでしょうか? 今迄と同じオケが流されている“だけ”なのに(苦笑)。嘘。やっぱり、パフォーマンスとは生ものなのですね。

 「アンニュイ・エレクトリーク」「資本主義は未だ有効である」「バカンス・ノワール48℃」「エレガントの怪物」と瞳ちゃんヴァージョンのでの曲が続いて、7曲目にかかった「フロイドと夜桜」には、感動と書いたらちょっと大袈裟の様な感じもしますが、でも、他にピッタリする言葉が思い付かない感情が湧きました。このシチュエーションで聴けて、本当に嬉しかったのです。

 改めて書くまでもありませんが、続くドミニクヴァージョンの「PHYSICAL」は最高潮に盛り上がりました。私も手に持っていたコートを床に投げて、踊りまくりました。

 物凄いうねりを生み出していた会場の中、Nagelのモデル嬢だけが、その役割を静かに演じ続けていました。ドミニクの為に作られたと言うアンコール(「Pantera」と「International lover」と言う曲名だとの事。エスロピIIさんより引用)になり、菊地さんが「この曲、歌なんか殆ど入ってないから、みんな適当に踊って!」と言ってようやく、彼女はエロねえちゃんがするカウンターガールの様な体をくねらす小さなダンスを踊りました。それも何だか良かったです。

 菊地さんは、パフォーマンスの間、最初から最後まで、いつものThierry MuglerのANGELを大量に噴霧していました。私が今まで観た中で一番沢山撒いていたような気がします。アンコールの挨拶の後、うっかり強く吸い込んでしまい、くしゃみが止まらなくなってしまいました。

 会場から立ち去る人波を見送りながら、松村君を見ると、拭っても拭っても浮かんでくる玉の汗を光らせていました。確かに、もの凄く踊っていましたから。反対側の隣に居た松田君の方は、あまり踊っている風ではありませんでしたけど、熱気で「暑い暑い」と言っていました。

 涼しい風に当たりながら、3人で渋谷まで歩きました。今回のこのイヴェントは、他の何かと比べる様な物ではありませんでした。本当に暖かくて、熱くて、クールで、プリミティヴで、私はずっとそれを噛みしめていました。

 にこにこで機嫌が良かった私は、駅から自宅までの間に声を掛けてきた知らない男の、「お姉さんの好きな音楽ってどんなのか知りたいなぁと思って」と言う質問に、本気で答えてしまいそうになりましたけど……、でも、今夜の音楽には、まだそこまでの力が無かったようでした。