家族の承諾について

 松村君と、首を絞め合う遊びをしていて、ちょっとキツく湿られ過ぎた後遺症に悩んでいる。本当に手を首にかけてやっていた遊びではなく、これらは全て言葉でのやりとりで、酸欠によって壊死したのは心だ。最初から「遊び」と言って始めたのに、私はいつの間にか本気になっていた。いいや、いつの間にか、ではなかった。本気になっているのに、私はもう何年も前から気付いていた。そして、松村君の指先が、頸動脈に掛かっているのにも気付いていた。私は、彼が本当にこのまま締めるのかどうか、その指先に力を入れるのかどうか、「私は貴方を信じていないわ。だって全て遊びなんだもの」と言いながら、目を瞑って待っていた。そして、その時は来た。


 目下、心の平均を保っているのは、私が今、ドナー候補者のひとりに選ばれている、という事実だった。知らない電話番号から着信があった事に気付いたのは、18時半だった。留守電にコーディネーターのTさんからのメッセージが残されていた。私はすぐに折り返しの電話を掛けた。

 Tさんは、手元に私からのアンケート用紙を持っているらしく、「何故、家族全員にこの事を話さなかったのか?」について質問して来た。勿論、本当の事は言えないので、嘘でもなく、当たり障りのない所を説明した。すると、「手術前に、家族に病院に来ていただき、手術を承認する書類にサインをいただく事になりますが、大丈夫ですか?」と訊かれてしまった。3年半前は結婚していたので、この点は問題なかったが、今は独りなので、ちょっと困ってしまった。妹か……。いざとなったら、弟に頼むしかないか。こんな精神状態では、血の濃い所へは行けないし……。悩む。