二つの別れ、春

 惜まれて消える場所がある。西麻布うまや、そして、麻布十番温泉である。今日は、三月末で終わる、この二つの場所を堪能してきた。

 一日限定25食の楽屋弁当は流石に売り切れ(予約切れだった模様)、もち豚炭焼き定食をいただいた。会社でマダムと呼ばされいるAさん一押しのもち豚は、めちゃくちゃめちゃくちゃ美味しかった! 甘く香りの良い脂が頭全体を包む程、香りを放っていて、3時くらいまで、美味しさをリフレインして楽しめた。嗚呼、もうお昼に行けないなんて、落胆の一言。

 麻布十番温泉は、昔から行きたいと思っていた温泉だった。2001年頃、よく活動していた日帰り温泉部で立ち寄る場所として、幾度となく候補に上げていた。しかし、初来訪が最後になるだなんて、切なさが抑えられない。温泉は、予想より茶褐色が薄く、軟らかく、甘味のある(蛇口があったので少し飲んでみた)あっさりっした温泉だった。外国人がウジャウジャいて薄めたようで、ぬるま湯になっていた。後で常連さんに聞くと、やはりもっともっと熱いようだ。

 風呂上がり、「食べ物、全部売切れちゃったのよ。自分達の食べる分も、今買って来た所なんだから!」と言うおばちゃんの言葉に肩を落としつつ、せめて瓶ビールだけでもと頼んだ。たくと君そっくりで推定年齢4才の女の子の鼻歌をつまみにいただいた。

 時間もあるし、ほろ酔い気分で、六本木ヒルズ毛利庭園を散策した。風呂上がり、風も暖かくて、でも心は完全に冷えていた。目が覚める程、燐と桜が美しく咲き誇っていた。 水面に映る桜を眺めながら、一昨年のツアー中の自由散策時間に、バスの運転手と二人で京都高台寺を散策した夜の事を思い出した。たいしてない時間の中、一番の見所である鏡の様な池のほとりに立ち、美しい風景を眺めながら彼は小さな小さな声で言った。

「俺が竹野内だったら、コマチさんは次の約束を受けてくれるんでしょう?」

 旅の仕事場で出会った人と、次の約束をする程、意味のない事はしない。『何故、竹野内?』と聞き返したかったが止めた。だいたい女はみんな竹ノ内が好きだと思ってると思ってる事自体間違ってる。雑誌の悪影響だろうか。