幸せそうな男の子を見ながら

 夜は、友人の料理人N君が作ると言うので、ヴェジタリアンの食事会に参加した。就労ヴィザで修業して技と自信を付けて帰ってきたとの噂通り、料理はどれも素晴らしかった。

 帰りの道すがら、N君は嬉しそうに「Mさんと暮らし始めたんです」と話してくれた。海外での修業を終えての同棲は、さぞかし楽しいものなんだろうな、と想像出来たが、私の中には何故か暗雲が立ち込めていた。私もいつか、誰かと共同生活が出来る様になるのだろうか。

 いつか、余裕のある生活が出来るようになって、養子を迎えるのが今の夢だ。……今の自分には、かなり壮大な夢だけど。

 なかなか眠れず、ようやく眠っても悪夢で叫びながら起きたりする日は少なくなった。フラッシュバックで眩暈を起こしたり、鳴咽の呼吸が変則的になって頭痛や発熱を引き起こしたりもかなり減った。平和だと思う。だけど、ブルーが心の中から完全に出て行く事はない。

 昨日会った初老の抽象絵画家は私に言った。「誰でも大人になったら、悲しい事のひとつやふたつは胸に抱えてるよ。だけど、康乃ちゃんは、いつも真っ直ぐそれを見つめて、ぶつかって行ってる。そこが素晴らしい所だと思うよ」。分筆家Sは言った。「康乃さんは、物事を俯瞰から見られる人ですね」。どうだろうか。分からない。

 泣き疲れたので、薬を飲んで寝ます。