小田原城址公園の桜

 その日、一番最後の目的地は小田原城だった。私はこれまで小田原城に行った事が一度も無かったのだけど、お城にはそんなに興味が無かったので、何事もなく到着した時、ただただホッとしただけだった。一行の中の一組の夫婦が「はぐれたけど、まぁ、いいわ。集合時間と場所は分かってるんだし」と言ったので、私は公園を散歩する事にした。

 予め、二の丸から見る桜が美しいと聞いていたので、私は迷わずそちらへ向かった。3月末に満開となった約700本小田原城ソメイヨシノは、時折吹く強い風に煽られて、そよぎながら大量の花弁を空中に放出していた。韓紅色のしだれ桜は、大きく揺らぎ、私を包む。先ほど降った通り雨の湿気が地面から上がり、サクラの、水仙の、パンジーの、チューリップの、ツツジの、松の、太陽の香りで私の胸内はいっぱいになっていた。

 あぁ、私は……、というか、みんな、桜の花弁の様だ、と思った。枝の先から離れて、地面に届く様に生きる。みんな大して変わらないな、と。花弁が宙を舞っているのは、私が“今”小田原城址公園に来て、ここに立っているのと、どんな違いがあるんだろう。同じだな。少なくとも、私にとっては同じだな、と思った。日本人が、桜を好きな理由が分かった気がした。