JAZZ TODAY '05 at STB 139

 9/2のモーションブルーは、もっと早く行けた筈なのに、ダラダラしてしまった為、取れた席はステージから遠くて、その所為で私はお喋りばかりしてしまい、ちょっと後悔していた。だから、今日はどうしても、どうしても早く行こうと思っていた。優先入場整理券を配る15時にSTBに到着していたかったのだけど、家を出られたのが15時半になってしまった。髪が決まらなくて……。

 シャワーを浴びながら、この間真知代ちゃんに、「巻き髪にしたら良いのに」と言われたのを思い出した。巻き髪は自分では出来ない。美容院も予約していないので、ハーフウイッグを頭に乗せる事にした。自分なりに準備を整え、14時半、家を出ようとしたら秘ロ氏チェックが入った。「ウィッグの付け方が変だ」と。結局、土台作りから何度もやり直したが、OKは出なかった。半ばキレ気味で家を飛び出したのが15時半だった。

 STBに到着し、25番の優先入場整理券を受け取った。25番……。どうだろう。微妙な番号だと思った。前回と同じ4人の同席者は、誰一人として25番を遅いと言う人は居ないだろうが、笑みを持って整理券を受け取る事は出来なかった。そして、小雨の降る中、近所の喫茶店に移動し、編み物をして時間を潰した。袖が編み上がってしまうかと冷や冷やしたが(外で止めの始末をするのは面倒だから)、ちょっと手前でやめ、洗面所を占領しドレスに着替え、化粧を微妙に濃くした。アイラインを書き足していると、私の顔がどんどん水商売の女みたいになって行くのでビックリして途中で止めた。六本木の所為だと思った。

 程良い時間になり、開場時間には誰も間に合わないと分かったので、待たず店に行く事にした。バルコニーには、モーションブルーよりは若干カジュアル寄りだが、可愛らしくおしゃれした女の子達や、若いカップルで溢れかえっていた。雨なので、少しダウンさせたのを軽く後悔した。これだから、ファッションに興味のない女(私)は駄目だなぁと思った。

 入場してみると、前の方の席は思ったよりも空いていてホッとした。私は前から3〜5番目の席5名分を確保する事が出来た。こんなに前で見られるのは本当に久し振りで嬉しかった。軽い赤ワインを飲みつつ、なかなか読み終わらない『O嬢の物語』を読みながら待った。会場は本を読むには暗すぎるが、一人きりでボーっとするには明るすぎるし、音楽が小さすぎる。仕方ないので、両隣の会話を聞こうと思ったが、ジャーゴンが多すぎて、私には言っている意味が分からなかった。独りだった。また、編み物をする事にした。

 予想していたよりも、ちょっと遅れて真知代ちゃんが現れた。「実習中で伸ばせないの」と言って、見せてくれた爪は、白魚のような手の先で綺麗に切り揃えられていて、上品に磨かれていた。白いジャケットが透き通るような肌を余計に白く見せていた。中学生の頃、私は顔の痣を薄くする手術の為に、度々顔に包帯を巻いていた。寒い日になると、必ず誰か先生が私の顔色を心配した。「包帯をしているから、顔が白く見えるのかも知れない」と言われたが、私は、「本当に白い物の隣にあって、白く見える筈がない」と思って笑った。だけど、それは間違いだという事が分かった。白い布の傍で、白い肌はより白く見えていた。

 真知代ちゃんは、私の髪を見て、「あ、今日はウィッグなんだね。地毛と色が揃ってるから最初分からなかった」と言い、「トップの所、もう少しヴォリューム付けても良かったね。あー。もっと早く来れば、やってあげられたのに」と言った。秘ロ氏がニヤリと笑った様な気がした。

 たぶん19時半頃になって、松村君やLちゃんやA君が来た。それまでの殆どの時間、真知代ちゃんと私は、「松村君が良くなる為には」というお節介極まりない話で盛り上がった。

 料理を4〜5品頼み、3皿程出てきた所で、Kikuchi Naruyoshi quintet live dubの演奏が始まった。菊地さんがステージ上を横切っただけで、Angelのファーストノートがこちらまで届いてきた。



01. Over The Rainbow(虹の彼方に)
02. パルラ
03. (パリの)エリザベス・テイラー
04. 即興〜LooK Of Love
05. Angel Eyes
06. You Don't Know What Love is
07. Isfahan
08. (南米の)エリザベス・テイラー
ENCORE
01. 即興〜Sweet Memories
02. ラス・メイヤー、聞いてくれ

 Dub効きまくりの「虹の彼方に」の途中、耳は勿論演奏を聴いているのだけど、ふと目の前の皿に乗っているPizza Quatro Formaggiがどんどん冷えていく事が気になったので口に運んだ。右側の奥歯で咀嚼すると、右側に座っていた女性に振り向かれた。ハッとして唇を押さえたが、別に開いては居なかったようだった。そうとう耳の良い方の様だったので、少し緊張しながら左側の奥歯で噛む事にした。

 Look Of Love、Angel Eyesと静かめなヴォーカル入り曲が続き、軽い即興を含むYou don't〜のイントロが始まると、私の視界の中に居た女性は、ゾッとするほど幸せそうな笑みを浮かべ、同席者に目で合図をした。今まさに、世界は彼女を中心に回っていた。本当に恐ろしかった。恐ろしいと思うと同時に羨ましいと思った。きっと、会場には無数の世界の中心があったに違いない。私は私なりに、世界の隅で楽しんでいた。素晴らしい時間は続いた。

 菊地さんは、左手の中指に大きなオニキスの指輪をしていて(光の加減で一瞬濃いグリーンカルセドニーかと思った)、他人のソロの間などに弄んでいたが、Isfahanの汗が飛び散るほどの盛り上がり中に、ちらりと直した。なんて事はない仕草だけど、何となく良かった。

 久し振りに近くで見ているからなのか、やたらと熱気溢れるステージだった。坪口さんの迫真の演奏を見ていたら、何故かMTマンに見えてきた(否、実際MTマンなんだけど、その、あの漫画のキャラクターに、と言う事・笑)。菊地雅晃さんもベースなのに(と言う言い方は偏見だと思う)、演奏やミキサー操作(?)で様々なテクニックを繰り出していた。藤井さんのドラムも色とりどりだった。ブラシの動かし方で、あんなに音が違う物なのか、と初めて知った。今日の本編最後のドラムソロは、力強いながらもセクシーだった。

 アンコール前に、怒濤のMCタイムがあった。A君は「良く喋る人だなぁ!」と驚いていた。よく喋るのは分かり切った事で、前回もそこそこ喋っていたと思うのだけど、A君がそういう風に感じたんだから、今回は相当喋ったのかも知れない。確かによく笑った。独り芝居を含む「お土産に入っている冊子は、読むのではなく、是非武器に」と言うのに凄くウケたが、……書いてみるとそんなに面白くない。

 Sweet Memoriesは、是非聴いてみたいと思っていたので、即興が始まった瞬間にニヤリとしてしまった。あらゆる意味で凄まじかった。色々な事を考えたり、思い出したりした。聴けて良かった。


 客電が点き、サイン会へ参加を促すアナウンスが流れた。私は、今日売られている殆どのCDを持っているので、どうしようかと迷ったが、松村君と2人で並んでいた真知代ちゃんに「並ぼう並ぼう」と盛んに薦められ、「まぁ、迷ってるなら並ぶか」と思って、持っていなかった『10 Minutes Older』を購入して並ぶ事にした(今思えば、兄妹間で、会話の間が持たなかったのかも知れない)。

Ost: 10 Minutes Older

Ost: 10 Minutes Older

 湯上がりみたいに火照った顔をした菊地さんは、私と松村君を見ると「あー。今日は2人で来れたんだ」と笑って言い、CDにサインをしてくれた。その後、松村君と真知代ちゃんと菊地さんの会話が最高に可笑しかったんだけど、今日は書かない事にする。面白かった。

 私達は、フロアに後10組目くらいしか残っていなくなるまで、雑談をしてから店を出た。外は相変わらずの雨模様。まだ帰りたくなくて、Lちゃんに付いて本屋に行こうかと思ったけど、それだと怪しい人なので止めて帰る事にした。駅のトイレで着替えてから電車に乗った。車内は蒸し暑くて、ウィッグも取りたかった。

 帰宅すると、一旦出掛けてから帰ってきた筈の秘ロ氏が、昼に見た時と同じ格好でMacに向かっていて、私を見てこう言った。「どうだった? その髪、なんて言われた?」。真知代ちゃんに駄目出しされた事は言わないで置いた。